【読売新聞コラボ企画|新聞で「社会」を知ろう】
「しあわせ小箱」 ビリヤニ太郎

2018/05/30
コラム

 読売新聞東京版の夕刊社会面には、心がほっとする街角の話題を取り上げた「しあわせ小箱」が2009年春から連載され、好評です。このうち2018年4月2~6日に計5回連載された話題をお届けします。

スパイスの香り ぞっこん

「ビリヤニ太郎」こと近藤太郎さん

「ビリヤニ太郎」こと近藤太郎さん

 「ビリヤニ」という料理をご存じだろうか?

 チキンやマトンをカルダモンやクミン、コリアンダーなど10種類を超えるスパイスを使って煮込む。そこに長粒種の香り米「バスマティ」を加えた炊き込みごはんのような料理だ。インドやその周辺国では、イスラム教徒たちの定番で、屋台などでは日常的に食べられている。

 「ひと口食べるたびに、スパイスの複雑な香りが鼻からフワッと抜けていって……」。ビリヤニのおいしさを語り出すと止まらないのが、現在、インドのデリーに赴任中の近藤太郎さん(27)だ。

 「ビリヤニ太郎」の異名を持ち、2011年には「日本ビリヤニ協会」を設立した。協会のスローガンは「ビリヤニを日本の国民食へ!!」。途方もない目標に聞こえるが、本人はいたってまじめだ。

 日本の家庭でも簡単に作れるようにと「ビリヤニの素(もと)」を開発したり、ビリヤニの料理教室を開いたりと、地道に普及活動を続けている。

 料理教室には日本で暮らすインド人も通うほどで、中には実際にインド料理店をオープンさせた生徒もいるとか。

 そこまでのめり込んでいるビリヤニとの出会いは、大学2年の終わり頃、インドの街角で立ち寄った1軒の屋台だった。

「衝撃の味」日本でも

 インドでよく食べられている炊き込みごはん「ビリヤニ」にほれ込んだ近藤太郎さん(27)は、大学2年生だった2011年1月、北インドにいた。もともとエスニック料理が好きでインド滞在中は片っ端から香辛料のきいた料理を食べていた。そんな時、偶然立ち寄った屋台でうまそうな炊き込みごはんを見つけた。

 薄汚れた銀色の皿。その上に敷かれた新聞紙にドサッと盛られた黄色いごはん。とても衛生的とは言えない見た目だが、そんなことは気にしない。一口ほおばった瞬間、衝撃が走った。「なんだこれは!」。肉のうまみが長粒種の香り米「バスマティ」に染みこみ、鮮烈なスパイスの香りが鼻を抜けた。思わずその場に立ちつくした。

 帰国後も、あの衝撃が忘れられない。ビリヤニが食べたくて、当時住んでいた神奈川県内や東京都内のインド料理店を巡ったが、ビリヤニを出している店がなかなか見つからない。ビリヤニは作るのに手間がかかる上、大きな鍋で一度に大量に作る。カレーがメインの日本のインド料理店では、なかなか出会うことが難しいのだ。

 「もっと気軽に日本でもビリヤニを食べられるようにしたい」。帰国から1か月後、日本ビリヤニ協会を設立することにした。

再びインドへ 修業の旅

 インドなどの炊き込みごはん「ビリヤニ」を日本でも気軽に食べられるようにしたいと、日本ビリヤニ協会を設立した近藤太郎さん(27)。インターネットの動画などで調理法を研究し、インド料理の食材店を回っては、様々なスパイスを買い集めた。ビリヤニに関する文献も読みあさった。

 ただ、いくら試行錯誤を繰り返しても、北インドの屋台で食べた、あのビリヤニの味が再現できない。行き詰まった末、「こうなったら、インドで本格的にビリヤニ作りを学んでくるしかない」と決意した。

 大学3年になった2011年8月、再びインドに渡り、各地を移動しながら、毎日3食、ビリヤニを食べ歩いた。

 地域によって香辛料の味も違えば、使う肉によって香りの印象も全く異なる。スパイスを入れる順番や量、味の決め手となる長粒種の香り米「バスマティ」のゆで具合など、気に入った店に通い詰めては、根掘り葉掘り質問した。

 約1か月間の滞在で、求めていた本場のビリヤニの作り方が、何となく見えてきた。ビリヤニ作りには欠かせない、直径50センチ以上はある専用の大鍋も現地で調達した。

 「これで、本格的に日本でビリヤニの普及活動がスタートできるぞ」

就活「インド」で検索(連載) 夕2社

 インドで「ビリヤニ」の作り方を学んできた近藤太郎さん(27)は早速、日本ビリヤニ協会の活動を本格化させた。専用の大鍋を使い、ビリヤニを野外で食べるイベントを開催。東京都内の店舗を借りて、土日限定でビリヤニ料理店を開いたりもしている。少しずつ、普及活動が軌道に乗る一方、「もっと深くビリヤニを知りたい」という思いも膨らんでいった。

 ビリヤニの起源は諸説ある。アフガニスタンで食べられている「カブールライス」や中央アジアで食べられている「ポロ」がビリヤニの源流とされる。ペルシャ帝国(現イラン)が南アジアに勢力を広げた際、ムガル帝国時代のインドで普及したという説が有力だ。

 大学4年生になった2012年6月、アルバイト代をつぎ込み、ビリヤニのルーツをたどる旅に出た。カザフスタン、ウズベキスタン、パキスタン、イランと各国を巡り、ビリヤニの源流とされる料理を食べ続けると、その情熱はさらに深まっていった。

 帰国後に待っていたのは、それまでそっちのけにしていた就職活動。ただ、会社選びの基準は単純明快だった。「インドに駐在しながら、ビリヤニの研究がしたい」。就職サイトで「インド」と入力して出てきた企業に片っ端から応募した。

目標は「日本の国民食」

 インドで「ビリヤニ」の研究ができるかどうかを基準に就職先を決めた近藤太郎さん(27)は2013年、自動車関連会社に就職した。勤務地はいきなりインドというわけにはいかなかったが、入社後も日本ビリヤニ協会の活動は続けた。

 赴任先の仙台市では、食品加工会社と協力して炊飯器で簡単にビリヤニが作れる「ビリヤニの素(もと)」を開発した。長粒種の香り米「バスマティ」をセットで通信販売すると、全国から注文が来るようになった。

 そんな中、ついに昨年7月、念願のインド赴任が決まった。「これで思う存分、ビリヤニを研究できる」。勤め先の会社には怒られそうだが、仕事はしっかりこなし、インド国内の出張先でビリヤニを食べ歩いている。

 日本での普及活動は現在、休止状態だが、赴任中に本場のビリヤニの知識を吸収して、帰国後には、さらに活動の幅を広げるつもりだ。その目標は今も変わっていない。「ビリヤニを日本の国民食へ!!」(了)

文・隅谷真

INFORMATION

 みなさん、いかがでしたか。働きながら、自分の好きなことに打ち込む近藤さんに、思わずエールを送りたくなった人も多いのでは? 「しあわせ小箱」は週ごとに話題を変えながら、原則月曜日から金曜日まで毎日、夕刊社会面に連載されています。ぜひ近くの図書館などで読んでみてください!

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